バスケ、サッカーと来たんで、今回は格闘技で。
格闘技といえば、自分が最もドップリはまったのは全盛期のPRIDEだったんだけど
第一弾はちょっと理由があり、ボクシングを取りあげたいと思います。
辰吉丈一郎選手の試合です。
我々の世代でボクシングのスーパーヒーローといえば、ダントツでこの選手に
なるのではないでしょうか。ホントに「カリスマ」的な存在の選手でした
(「でした」じゃないか、まだ辰吉さんは現役なんだよな、たしか)。
ちなみに辰吉選手は、岡山県倉敷市出身で、わしにとっては同郷という意味でも
凄く思い入れのある選手(多分、ご実家は車で20分くらいのところではないかと)。
そういえば、学生時代は多くの人が、自分が知っている「辰吉伝説」を
広めていたものです。「知ってる? 辰吉って中学生の時にさあ…」
「俺の先輩が辰吉の友達で、この間その人が言ってたんだけど…」とか
「このあいだ、ゲーセンに行ったら偶然、辰吉がいて…」みたいな。
どれが嘘でどれが誠かわかりませんが、まあ伝説が何個も誕生するくらいの
故郷のスーパーヒーローなんですよね。辰吉丈一郎って。
さらにさらに、実はわしの中学のバスケ部の顧問は、かつて辰吉選手を教えていた先生
(わしの中学に赴任する前は辰吉選手の母校の教員だった)で、彼が初めて世界王者に
なった時(当時、わしは中学生)は、ものすごく嬉しそうに辰吉選手の話をしていました。
あ、これはホントのハナシよ(笑)。
先生のクルマの中に「○○先生へ」と書かれた辰吉選手のサインがあったことを、
わし、よく覚えていますし。
さてさて、
今回、彼の試合をピックアップしようと思った理由ですが…、
はい、皆さん分かりますよね?
そう、先日、彼の次男・辰吉寿以輝選手のデビュー戦があったからです。
カリスマの息子は、見事な勝利でデビュー戦を飾りました。
で、
辰吉丈一郎の息子というと、わしはこの試合を思い出すんです。
シリモンコン・ナコントンパークビュー(のちシリモンコン・シンワンチャー)との
WBC世界バンタム級のタイトルマッチ。辰吉選手の5度目の世界挑戦の試合です。
名勝負その3
WBC世界バンタム級タイトルマッチ
辰吉丈一郎×シリモンコン・ナコントンパークビュー
辰吉といえば、「世紀の一戦」といわれた薬師寺選手との試合が
最も有名だと思いますが、わしは、それ以上にこの試合が印象に残っているんです。
薬師寺戦を含め、タイトルマッチで勝てなくなっていた辰吉選手が
王座に返り咲いた試合で、本当に感動の前に「ビックリ」したんで。
なにか、彼の執念と意地を見せてもらった試合だったように記憶しています。
辰吉は、当時史上最速となるデビュー8戦目で世界王者に就きました。
とんでもない選手が現れたと、日本中が大騒ぎになったものです。
誰よりも速い足(ステップワーク)を持っていながら、あくまでも倒しに行く
そのファイトスタイル。試合のなかで時折見せる各種のパフォーマンス、
面白さとカッコよさを兼ね備えたマイク、すべてがヒーローのそれでした。
ただ、そこからの辰吉は苦難の連続でした。
特に網膜剥離を患ってからは、ルール上、なかなか試合を組んでもらえない、
試合にこぎつけても勝利を得ることができない、と、あの時の輝きを取り戻せない
日々が続きます。
一方で、そこに変な魅力を感じたのも事実。
※それが魅力だと思うようになったのは大人になってからかもしれんけど
我々は何度も辰吉が敗れる(ほとんどKO負け)姿を観ており、
殴られだしたら、「ヤバい」「負けるかもしれない」と思ってしまうのです。
彼に「もろさ」を感じ始めていたのです。
PRIDE後期の桜庭和志に似ていると思います。
彼もまたヴァンダレイ・シウバに敗れた後は「殴られたら失神する」という印象が
深くファンの脳裏に刻まれ、晩年の彼の試合はいつもビクビクしながら観ることに
なりましたが、まさに辰吉もそんな感じでした。
さて、
この試合は王者・シリモンコンに、辰吉が挑む形のタイトルマッチです。
王者はこれまで無敗できており、その強さと20歳という若さから、
解説者曰く「ものすごく勢いのある」状態でした。
体も大きく(実際、この試合の後階級を上げます)、素材としては
辰吉よりも遥かに優れたものを持っていたでしょう。
対する辰吉は、直近3回の世界戦を全て落としていることから
「崖っぷち」と言われていました。
若く勢いのある王者と、後がない挑戦者、
これがこの試合の構図だったのです。
戦前の下馬評は、「王者圧倒的有利」だったことは言うまでもありません。
しかし、そんななか、辰吉は早い段階でダウンを奪います。
第5ラウンドでした。
解説者が何度「ナイスボディ!!!」と叫んだか。
強烈なボディブローを何発もたたき込む辰吉、その度にぐらつくチャンピオン。
辰吉がシリモンコンを苦戦させているだけで解説者は驚いていました。
そのくらいにこの若き王者の評価は高かったのだと思います。
そして、ボディブローの連発の後に、右ストレートがヒット。
ややガードの上からの一発ながらも、王者ダウン。
若き王者の才能と勢いを、挑戦者の経験と技術、そして精神力が上回った瞬間でした。
4ラウンド、5ラウンドと、辰吉が王者を圧倒。
これはいける!! 強い辰吉が帰ってきた!!
観る者がコブシを握った次の瞬間、王者の反撃が始まります。
6ラウンド、シリモンコンが生き返りました。
ダウンを喫したことで開き直ったかのように、攻撃開始。
その若さとポテンシャルを開放し始めたのです。
辰吉は打たれ始めます。
王者のパンチによろめく辰吉。
足が揃い始め、体がのけぞるシーンも増えてきました。
記憶がよみがえります。
そう、敗北の予感です。
ファンはこうやって辰吉がリングに崩れ落ちるところを何度も観てきました。
いつものパターンが脳裏をよぎります。
「危ない!」「危ない!」と解説者が何度も叫びます。
会場の声も「行け!!」「倒せ!」から「ヤバい!」「頑張れ!」の
雰囲気に変わります。第6ラウンドからは悲鳴の連続です。
スイッチが切れたように倒れてしまう辰吉の姿が、ファンの頭に浮かびます。
あの、最も見たくない瞬間を想像し始めます。
しかし、今日の辰吉は、違いました。
この日の辰吉の執念は、我々の想像を超えていたのです。
7ラウンド、
「セコンドの指示は、下がるときに打たれるパンチに気を付けろ、
そして、ボディを狙え、です」
ちょうどリングサイドのアナウンサーがセコンドのコメントを伝えた直後でした。
まさにそのボディブローが王者を捕えました。
1分30秒、シリモンコン、2度目のダウン。
一気に立ち上がる観客。大絶叫が会場にこだまします。
大騒ぎのなか、ニュートラルコーナーに下がる辰吉。
シリモンコンはもう一度立ち上がりそうな気配です。
冷静に挑戦者が呼吸を整えます。フィニッシュの準備です。
アナウンサーが叫びます。
「まだ時間がある!! さあ行け、辰吉!!!」
立ち上がった王者、「ファイト」の合図のレフェリー。
ニュートラルコーナーから辰吉がリング中央に進みます。
ファイティングポーズではなく、腕を下げたまま、のしのしと歩きます。
トドメをさすべく、歩いていきます。
ここからの辰吉の攻撃が凄かった。
まさに「練習通り」の連打が出たのだと思います。
サンドバックを殴るかのような、左・右のすさまじい連打。
左右のパンチが、顔面とボディに打ち分けられます。
格闘ゲームのお手本のようなハイパーコンボがさく裂し、
王者がロープ際でよろめいたところで、レフェリーが試合をストップ。
第7ラウンド、1分54秒、TKO勝利。
辰吉が天を仰ぎ、両手を挙げ、そして前のめりにリングに膝をつきました。
リングサイドに座っている観客はいません。会場が爆発していました。
解説者が叫びます。 「よくやった!! よくやった!!!!」
みんなが、まさにこの気持ちでした。
ボロボロの状態になっても倒れず、これまで敗れた試合と同じ展開に
なりながらもカムバックした辰吉。
驚愕と興奮と感動が入り混じる壮絶なフィニッシュシーンでした。
試合後、久々のチャンピオンベルトを巻いた辰吉丈一郎のもとに
2人の男の子が駆け寄ります。
笑顔を取り戻した辰吉に肩車される、小さな男の子と、
右手に抱きかかえられる、もっと小さな男の子。
この、新チャンピオンとなった、世界一強い男に抱っこされながら、
泣きじゃくる小さな小さな男の子、
当時1歳だったこの男の子が、そう、辰吉寿以輝なのです。
※確かこのシーンは、漫画「はじめの一歩」の扉にも使われていました
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※追記
スミマセン、これ、誤りです。
はじめの一歩の扉になったのはラバナレス戦の2回目の後とのこと
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これから17年後、彼は父親と同じプロボクサーの道を歩み始めるんですね
辰吉寿以輝のデビュー戦のニュースを見た瞬間、
この試合を思い出しました。
この試合は薬師寺戦ほどの知名度はないでしょう。
でも、ベストバウトはどれかと言われたら、わしはこれだと思うのです。
日本中が感動した名勝負でした。
第7ラウンドのフィニッシュシーンは圧巻です!!
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嗚呼、名勝負(3) WBC世界バンタム級選手権 辰吉丈一郎×シリモンコン・ナコントンパークビュー へのコメント一覧
ひとつよくわからなかったのが、
若くて勢いのある王者と、がけっぷちの挑戦者なのに、挑戦者有利の下馬評だったんですか??
読みながら泣けた。
ガラスといった表現がびったりの辰吉は本物のカリスマだったことを思い出しました。
戦前の下馬評は「挑戦者の圧倒的有利」
だったのでしょうか?
「王者圧倒的有利」ですね。
修正しました。
言いようがない。まあ現在は軽度のドランカーと言っても過言じゃない状態だけど、内藤ポンサクのような巧さがあれば・・・
亀田みたいな妙な器用さがあれば
こんばんは。
辰吉、ホンマ格好良かったですね〜!
負けても いつも辰吉らしい魅せる試合で毎回感動してました。
おかげで他の人の、最終Rまで戦ってキレイな顔して負けちゃう試合は何だかモヤモヤします。
ビッグマウスの亀田のアウトボクシングもキョトンとしてしまいます。
辰吉好きなんで子供さんの試合見れませんでした…
次は見てみようかな…
目茶苦茶興奮したなぁ。
今日、コンビニで立ち読みしたフライデー巻末に本記事が掲載されてました!おぉ、なんてタイミングだ!って勝手に思ってました^^;
これからも楽しみにしてます!
Kさん、もっと名勝負教えて下さい!
ディフェンス下手だし・・・
華麗に避けるとか言っている人もいますが失敗して被弾したり打ち合いでもらったりする事が多過ぎです
試合しても二流ばかりです
真の一流ボクサーには勝てないでしょう
事実、ウィラポンには勝てなかった
眼を痛める前でもウィラポンには勝てないでしょうね
しかも・・・
負けても負けても次の世界戦がダイレクトに、または1年半以内に実施された。
何度も何度も世界戦に負けているのに、なぜかWBCはランキング1、2位にランクし続けた。
40近いダニエル・サラゴサと2回やって2度とも完敗
特に初戦、血だるまにさせられTKO負け。
しかも辰吉との初戦、サラゴサは試合前から1996年中の引退を宣言するなどしていた。
シリモンコンは減量苦でした
しかも彼にはタイでいい加減な秤を使い計量していた疑惑があります
彼はリーチが異様に長くスピードがあったのだからアウトボクシングを学ぶべきでしたね