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  • 2020年11月13日14:20

小説/僕のラノベは世界を救う 第07話/3か月が経った

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第07話/3か月が経った

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 九門のブログ「雲の筆」が立ちあがって3か月、季節は夏となっていた。


 九門が更新した記事数は110本。うち「異世界バスケ」は38本(=38話)。読者数はさらに少し増え、1日あたり80人ほどになっていた。


 とある土曜日、九門の部屋。

 カタカタカタカタ……。

 相変わらず、部屋に響き渡るキーボードの音。


 サクラは、ソファーに寝そべり、アイス(ガリガリ君)を食べながら、九門に声をかけた。
「まだやっとん?」

 九門は、キーボードを叩きながら答えた。
「うん」


 カタカタカタカタ……。


「そんなに楽しいん?」
「うん、書くのは楽しいよ、けど…」
「けど?」


 カタ……。

「全然読まれてないんだよな」


 サクラは棒だけになったアイスを口から外し、立ち上がった。
「そんな読まれるわけないがぁ。大地くん、有名人でもないのに」


 九門は両手をアタマの後ろに組んだ。
「まあ、そうだよな……」

 サクラはアイスの棒をゴミ箱に捨てた。
「知らん人の日記、読む人おらんじゃろ」

 九門は背もたれをグイっと倒した。
「まあ、そうだよな……」


 九門は「ブログを書いている」としかサクラには言っていなかった。ブログの名前は伝えていないし、そこでラノベを更新していることもサクラは知らない。ブログといえば、芸能人のものに代表される「日記」のイメージ。サクラは九門が日記を毎日つけていると思っていた。そして、一般人の日記を読む人など多くはないと思っていた。


「大地くんのよりよっぽど店長のブログの方が人気じゃろ。店長、面白いし」
「まあ、そうだよな……」


 ちょっとムカついたが、九門はサラッと流した。自分が一心不乱にキーボードを叩いているとき、少々サクラが不機嫌気味だったのを知っていたから。むしろ、ここでちょっとイヤミを言われて「これでイーブン」と納得していた。


 さらに1か月が過ぎ、8月になった。

 編集部で働く九門は、イベント取材などの兼ね合いで、いわゆる「お盆」に夏季休暇を取ることはこれまでほとんどなかったが、今年は奇跡的にスケジュールが空いていた。サクラと休みの予定が合致した。

 九門はなんとなくサクラに聞いた。
「夏休み、どっか行くか」

「うん! じゃあ、ええーーっと、温泉!」
「温泉? 夏に?」
「べつにええじゃろ」
「まあ、べつにいいけど」


 迎えた8月中旬、
 九門とサクラは久しぶりに旅行に出かけた。クルマで2時間ほどの場所の温泉地。


 九門は、PCを持っていかなかった。


 サクラはなんとなく九門に聞いた。
「PCは、いらんの?」

「うん、温泉だしさ。なんか仕事っぽいもの持っていきたくないし」
「うん、そっか」


 実は、これはサクラの作戦だった。PCを持っていく雰囲気にならないように、サクラは温泉を希望したのだ。九門はその意図には気づいていなかったようだが、はたして狙い通りになったというわけだ。

 スマホは手元にあったが、ブログの更新はPCという(自分で決めた)謎のルールがあるので更新しなかった。


 3泊4日の旅行、ブログのことが気になったのは、初日だけだった。そして、この旅行の間あまりにもサクラが楽しそうにしていて、なんだか申し訳ない気分になってきた。

 あのサクラの笑顔は、つまり「最近しばらく楽しくなかった」からだ。
 自分がずっとサクラをそっちのけでキーボードを叩いていたからだ。
 毎日更新してきたのに、ブログ読者はまだ1日あたり100人弱。
 「異世界バスケ」の内容には自信があったのに、まだ100人弱。
 こんなもんか。

 一方、サクラはすごく楽しそう。


 たいして興味を持たれていないブログ、自分に笑顔を向け続けるサクラ。

 
 ブログを開始して4か月、そもそも無風状態のブログだったが、いよいよここで完全に風が止んだ。

 九門は、ついに飽きた。




続く



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