九門のもとに届いた一通のメール。
「プロ契約の御相談」
一瞬なにかの詐欺メールのように見えたため、ソッコーでゴミ箱行きにしようとしたが、差出人がブログ管理会社だと気づいた九門は、ちゃんと読むことにした。
内容はこうだった。
・ブログ「雲の筆」及びラノベ「異世界バスケ」には集客力がある
・この大規模なトラフィックがあれば、広告ビジネスが可能である
・だが、WEB広告の運用にはある程度の知識が必要で、時間も手間もかかる
・なので、ブログ管理会社である我々とプロ契約を結ばないか
ブログに代表される個人WEBメディアで広告売上を作る人間がいることは、もちろん九門も知っていた。いまでいえばユーチューバーがそれの代表であろう。
興味がないわけではなかったが、このメールの通り、現役バリバリのサラリーマンである九門にはそういった類の作業に費やす時間はなく、そもそもWEB広告の知識もほとんどないため、真剣に考えたことはなかった。
だが、今回のブログ運営会社の提案は、その面倒な作業をすべて彼らがやってくれるというものだ。
「あなたは面白いブログ・ラノベを更新してくれればOKです。あとのマネタイズは我々がやります。それであなたは収益を得られます」というハナシなのだ。
九門は考えた。
これって、副業になるんだろうか。
だとしたら、ウチの会社ってそういうのOKだったっけ。
そして自分はいま生活に困っているわけではない。まとまったお金が必要な用事も特にない。はたしてどうしたものか。
まあ急ぐこともないか、と九門はメールを閉じた。
続いてブログ管理画面を開き、いつも通り更新作業を始めた。
カタカタカタカタ……。
今日も「異世界バスケ」を書く。もしかしたら、いま一番楽しい時間かもしれない。
そろそろダンクを見せる時か。いや、やはりもう少し引っ張るか。時折ニヤけながら、九門はキーボードを叩く。仕事の原稿の5倍はあろうかというスピードで筆(キーボードだが)が進む。
そうしてノリノリで500文字ほどを書いたそのとき、九門のスマホが鳴った。
サクラだった。
んだよ、
いまノリノリで書いてるところなのに……。
キーボードを叩きながら、ちょっと面倒くさそうな顔でスマホをさわり、LINEを開く。
「ウチの親が大地くんに会いたいって言ってる」
ドクン!!!!
九門の手が止まった。
それがどういう意味かは、もちろん分かる。九門は書きかけのラノベを保存し、管理画面を閉じた。
「ふぅ〜」
一度大きく息を吐き、ソファに寝そべった。
もう一度スマホの画面を眺める。
「ウチの親が大地くんに会いたいって言ってる」
九門は、スマホを置き、天井を見上げた。
そうか、確かにそういう頃だよな。
いままでの、いつか結婚するんだろうとふんわり思いながら一緒にいる感じが、とても心地よかったのだが、いつかはこういうケジメが必要だってことも分かっている。
あの温泉旅行を思い出す。サクラの笑顔を思い出す。
そういえば、もうすぐ年末だ。
サクラは岡山に帰省するだろう。
そこがいい機会なのかもしれない。
プロ契約の話が来たと思ったら、もっとデカイ契約の話が来ちゃったか。
いや、誰がウマイこと言えと。
ひとりで脳内漫才をしつつ、目を瞑る。
その日はもうラノベを書く気にはなれなかった。
続く
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小説/僕のラノベは世界を救う 第19話/プロ契約の相談が来た へのコメント一覧
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