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  • 2021年01月04日17:00

小説/僕のラノベは世界を救う 第27話/結婚を申し込んだ

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第27話/結婚を申し込んだ

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 サクラ実家のリビングルーム。


 部屋の中央に置かれた長方形のコタツ、サクラの両親が並んで座り、向かい合う形で九門とサクラが座る。

 正座の九門は、首筋と腋に汗を感じながら、さて、どこからどう切り出したものか、と考える。

 やっぱりあれか、定番の「お嬢さんを私に」というやつか。
 いや、その前に簡単な自己紹介でもするべきか。

 が、そんなシミュレーションは不要だった。

 サクラ母が笑顔で口を開く。
「もうサクラから色々聞いとるんよ。『お嬢さんをください』みたいなのはいらんからね。も〜、お母さん、こんな硬いの耐えられんわ」

「え……?」

 サクラ父も笑顔だった。
「リラックスしてください。メシでも食いながら話しましょう」

「は、はい……」


「お腹空いたでしょう? 大地くん」
 サクラ母はそう言うと、コタツから立ち、奥のキッチンへ。

 そして、大きな寿司桶を持って戻ってくる。なんとも豪華。おそらく「特上」というやつだろう。

「サクラ、冷蔵庫からビール持ってきてちょうだい。あとグラスも」
「はぁ〜い」

 サクラ父がビール瓶の口を九門に向けた。
「大地くんは、ビールは大丈夫かな」

 九門はグラスを差し出した。
「はい、大好きです。いただきます」


 九門は再び考え始めた。

 確かにご夫婦の雰囲気は古風かもしれないが、サクラが心配そうに言っていた「古い人だから」という感じは1ミリもない。


 はたして、夕食が始まった。

 九門は、仕事のことや自分の両親のことなど、ひと通りの自己紹介をし、おそるおそるながら、ビールと寿司を口に入れていく。気づけば足を崩していた。最初の緊張感は随分なくなっていた。

 しかし、これはこれで、また難しいシチュエーションだ。ハッキリと結婚の話はしていないのだが、どうもサクラの両親はその前提でいてくれている。

 一番難しいところをクリアできていて、それはありがたいのだが、なんというかケジメがつかない。モヤモヤした感じが続く。


 よし、

 九門は決めた。「あの…」と、両親に声をかけ、再び正座に。

「ん?」
 サクラ両親、一瞬身構える。

「あ…」
 何かを感じたのか、サクラも正座に。


 今日一番の汗を感じながら、九門は告げた。
「すみません、不要なのかもしれませんが、ちゃんと挨拶はさせてください」

「あら…」
「……。」
 サクラ両親も正座。


 九門は少し体を引き、コタツから出て、頭を下げた。
「もうお聞きかもしれませんが、仕事の都合で2月から東京に異動になります。私は、サクラさんと一緒に東京に行きたいと思っています。結婚させてください」

 九門からは見えないが、サクラも同じように頭を下げていた。


「………。」


 沈黙。


 頭を下げたままの九門。

 再び汗を感じる。さきほどの「今日一番の汗」の記録が、一瞬で塗り替えられていた。


 静寂を破ったのは、サクラ父だった。
「頭を上げてください」


 九門、静かに頭を上げる。

 サクラ父は、またビール瓶の口を差し出した。
「届けはまだかもしれんが、今から大地くんはわしの息子じゃ。飲みなさい」

「……!」

 九門、再び頭を下げる。
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 ちょっと大きな声を出してしまった。

 グスッ…。

 隣から鼻をすする音が聴こえた。

「……?」
 九門が横に目を向けると、サクラが涙をぬぐっていた。

 やさしい笑顔のサクラ母。
「あら、ウチを出る時も泣かんかったのに」

「ゴメン、なんか分からんけど、出てきた」

 因みに、あとから聞いたら、その「ウチを出る時」も、実は電車に乗ったあとに号泣だったらしいが。

 サクラ父も笑った。
「もうワシも硬いのはしんどいわ、ホンマにゆっくり飲もう」

 九門も笑った。
「はい、僕も疲れました」
 
 サクラ母は、さらに声を出して笑った。
「はぁ〜、やっと気持ち悪い時間が終わったわ」

 それを口火にみんなも声を出して笑った。


 九門は再び寿司を口に運んだ。さっきまでの100倍美味かった。やっと味がハッキリ分かるようになり、モグモグと口を動す九門だが、しかしまだひとつ引っかかることが残っている。


 人生最大に緊張した時間だったが、何もなく一旦終わった。でも、サクラが心配していたことは何なんだろう。

 その答えは、10分後に分かった。



続く



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