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  • 2021年01月06日07:30

小説/僕のラノベは世界を救う 第28話/結婚の条件を聞いた

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第28話/結婚の条件を聞いた。

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 モグモグ。ゴクゴク。


 今回の実家訪問の最大のミッションを終え、寿司とビールを楽しむ九門とサクラの家族。九門の汗は止まっていた。リビングに温かい時間が流れている。

 そして、そろそろ腹が膨れてきた、という頃、

「あ…」
 思い出したように、サクラ父が九門に顔を向けた。

「……?」

「大地くん、ひとつだけお願いがある」
「は、はい」

 サクラ父は箸をおき、ちょっと姿勢を正した。あわせて、九門も姿勢を正した。


 サクラ父は、九門に告げた。

「サクラは家で大地くんを待つ子にしてやってくれんか」


「え……?」

 九門は、言葉の意味がすぐには分からない。

 サクラ父は続けた。
「わしは古風な男でな。男が働いて女が家を守る家庭が好きなんよ。ウチもそうやってきた。大地くんもそうしてやってくれんか」

 「古風な人」の答えが、いま出た。

 そうか、そういうことだったのか。推測の必要もない、サクラ父自ら「ワシは古風な男」と言って、この話をしている。

 横を見ると、サクラは下を向いていた。

 そこにサクラ母が入った。
「お父さん、そんなの押し付けちゃいけんよ。まだふたりとも若いんじゃし、東京なんてお金かかるんじゃから」

「お母ちゃん…」

 しかしサクラ父は構わず、九門に聞いた。 
「大地くん、無理にとは言わんが、考えてくれんか」


 九門、3秒ほどの沈黙のあと、真っ直ぐな目で答える。

「大丈夫です。僕がしっかり働きます」


「まあ…」
 サクラ母、口に手を当てる。

「そうか、ありがとう」
 サクラ父は、今日一番の笑顔を見せた。


 1時間後、
 九門とサクラは、2階にあるサクラの部屋にいた。

「ふぅ〜」
 寝巻のジャージに着替え、全ての緊張から解放された九門は大きなため息。自分の家ではないのだが、この8畳の空間がオアシスのように感じる。

「疲れたなあ、ホンマ」
「うん、疲れた」

「大地くん、カッコよかったで」
「ん?」

「ふふふ」


 ベッドの上に荷物を置き、床に布団を2枚並べる。

 ふたり天井を眺めながらの会話が始まった。

「大丈夫なん?」
「ん?」

「アタシも働かんと、お金キツイと思うよ」
「あ〜、それか…」
「大地くん、貯金ナンボあるん?」
「あんまりない。100万あるかないか……」
「アタシ、もっとないよ…」

 九門は、大手出版社の正社員なので、いまはある程度の収入を得られているが、それは今年の4月からのこと。日々の生活には特に困っていないものの、蓄えは決して多くはなかった。

「東京の家って、家賃どのくらいなんじゃろ…」
「ちょっと調べた感じだと、ケッコー高いよな、やっぱり」
「引っ越しもお金かかるし」
「そうだな、考えなきゃ」


 九門は、天井を見つめつつ、頭の後ろで両手を組んだ。

 あのときは、大丈夫ですと言ったものの、冷静に考えるとなかなか大変な気がしてきた。でも今さら「スミマセン、やっぱり…」とは言えない。

「はぁ…」
 小さなため息が出た。

 それを聴いたサクラが、九門の方に顔を向けた。
「どうしよう、明日お父ちゃんともう1回話す?」

「いや…、それはいい。考えるよ」
「考えても、お金は増えんよ」

「分かってるよ」

 サクラは話すのをやめた。いまの九門の「分かってるよ」は、ちょっとイラッとしたときの喋り方だった。


 せっかくのオアシスだったが、またソワソワし始めた九門。いまいる場所が名古屋の部屋ならば、ソッコー蕎麦屋だろう。
 

 宝くじでも当たればラクなのに…。

 さっそく都合のいい妄想をしてしまっている。


 そのとき、

「あ!!」
 九門、2分ぶりに声を出す。


「ん?」
「いや、なんでもない、ゴメン」


 九門は思い出した。

 いつぞやの「プロ契約」の話を。



続く


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