準々決勝・第1試合
試合終了
横浜D 97
深体大 100
『ビビーーーーーーーーーーー!!!!!!』
会場にブザーが鳴り響く。
瞬間、選手たちはその場で動きを止めた。
勝者チームがガッツポーズをとるでもなく、
ベンチメンバーがコートに飛び出すでもなく、
ただ、そこに立ち尽くしていた。
最後の戦場となったゴール下、
10人の戦士は動かず、持ち主のいないボールが、
唯一コートの外に向かって転がっていた。
「ハァ…」
「ハァ…」
誰ひとりとして物言わず、ある者は膝に手を突き、
ある者は汗をぬぐい、ある者は天井を見上げ、
全員が大きく肩を上下させ、深く呼吸していた。
《………。》
放送席もしばし黙ってこの光景を見つめていた。
記者席も同様。
そして観客席も。
横浜Dを応援する者も、深体大を応援する者も
なぜか声が出せなかった。
勝者と敗者の明暗が分かれるはずのコートで、
少々のざわめきのなか、両軍を取り巻く人間が、
同じように黙っていた。
時計がゼロになったところで、まさに文字通り、
時間が止まったようだった。
誰も動かないコートに対し、
レフェリーが整列を促す。
それに従い選手たちがコート中央に動き始めた。
天皇杯のこのランクになってくると、試合後は
選手たちが勝手に動き、握手を交わすのが通例で、
特に整列はせず、自然とフィナーレになることも
ままあるが、彼らは指示に従い並んだ。
記者席の彦一はボソリと呟いた。
「学生みたいや…」
実際、そこに並んでいる10人のうち5人は大学生で、
それはおかしな呟きなのだが、弥生ら他の記者陣は
静かに頷いた。
『ピッ!!!』
レフェリーのホイッスルを合図に10人が礼。
そして、互いに歩み寄り、握手を交わす。
道谷《100‐97、深体大の勝利です》
時間が動き始めた。
パチパチパチパチ…!!!!!!!!
拍手と声援がコートに注がれる。
森尾 「ふぅ…、凄まじい試合だったな…」
杉山 「見ているコッチも疲れましたよ、ホント」
森尾 「桜木、学生が勝っちまったぜ」
桜木 「ああ…」
試合前、ベテランの存在を理由に横浜Dの勝利を
予想した桜木、静かに画面を見つめる。
杉山 「もう少し見てみたかった気もするけどな」
桜木 「いつか、やることになる」
森尾 「ほう」
桜木 (センドー、いつかまた勝負だぜ)
放送席の道谷。
《塚本さん、深体大が昨年に続きベスト4です。
最強世代の大学生が、再び上がってきました》
塚本、返す。
《ええ、横浜ドリームスも学生世代の選手が多く、
まるで未来のBリーグをひと足早く目の当たりに
したかのような試合でしたね》
道谷《最後の場面、いかがでしたでしょうか》
塚本《まさに紙一重でした》
道谷《あの4点差から奇跡のような流れでしたが》
塚本《何が起こるか分からないものですね》
赤木 「奇跡が起きようとしていたが…」
花形 「ああ、あと一歩だったな」
荒石、苦笑い。
「しかし、このクラブがBリーグじゃないのかよ。
B1トップレベルの力がありそうだけどな」
赤木 「横浜ドリームスか…」
整列を終えた選手たちが、ベンチに戻る。
横浜Dメンバー、応援席に向かって頭を下げる。
瞬間、大きな拍手と声。
「ありがとう、ドリームス!!!!!!」
「みんな、ありがとう!!!!!!」
パチパチパチパチパチ……!!!!!!!!
選手たちが再び頭を下げる。
塩田と宮ノ腹は、観客席に向かって手を叩く。
「シオさん、ミヤさん、ナイスファイト!!!」
「よくやった!!! ありがとう!!!!」
旧イサキ自動車時代からチームを支えるふたりに
大きな拍手が贈られる。
試合には敗れた。
だが、この天皇杯ファイナルラウンドという
特別な場所に再び戻ってきてくれた。
応援団をこの大舞台に連れてきてくれた。
敗北の悔しさを、感謝が上回った。
そして、
存続すら危ぶまれたこのクラブにやってきた
新たな戦力たちにも同様に声が飛ぶ。
「キッチョウ!!!! 今度は決めよう!!!」
「次だ次!!! 次は勝とうぜ!!!!」
福田 「……。」
両肩が震える。
下げた頭を上げられない。
「ノブナガーーーーーーー!!!!!!!」
「凄かったぞ、ノブナガ!!!!」
「胸張って帰ろうぜ!!!!!」
清田 「みんな……」
グッ…。
コブシに力が入る。
清田 「クソ…!!!!!」
(この人たちのために、勝ちたかった…!!!
どうしても、勝ちたかった…!!!!)
当然、このプレイヤーにも大きな声援が飛ぶ。
「センドーーーーーー!!!!!!!!」
「仙道、ナイスプレーーーー!!!!!」
仙道、少し微笑み手を振る。
「おおおお!!! 仙道ーーーーー!!!!」
記者席の弥生。
「もしかしたら、仙道君はこの試合が
ドリームスの最後のゲームになるのかも…」
彦一 「え…!?」
町田 「ああ、ありえるな…」
弥生 「B1クラブが放っておくわけがないわ」
(いや、清田君や福田君、もちろんベテラン勢も
みんなトップリーグで戦える選手なのよね…)
左京 「ケン…、最高の応援団だな」
佐戸 「ああ、俺も何度も助けられたんだ」
外川 「どうなるかな、これから」
左京 「……。」
(ケンは、かつてあのチームにいた。日本最強の
クラブとして君臨していた。それが解体され、
もしかしたら、今度は仙道が…)
「仙道、ありがとう!!!!!!!」
横浜D応援団は、仙道に「残ってくれ」という
声は掛けなかった。ただただ感謝の声を贈った。
大浜が笑顔で手を振る。
「ありがとよ、またみんなで戦おうぜ」
「監督!!!!!!!!!!!」
「大浜さん、また戦おう!!!!!」
「俺たちはずっと一緒だ!!!!」
自然と、コールが起こる。
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
左京 「おお……」
佐戸 「………。」
彦一 「す、凄い……」
清田が叫んだ。
「ああああああーーーーーー!!!!!」
その場に膝をつき、床に突っ伏す。
(勝ちたかった……!!!!!!!)
彦一 「清田君…」
逆側の観客席では、勝者への声援。
「深体大、よくやった!!!!!!」
「この空気のなかでよく勝ち切った!!!!!」
佐戸 「その通りだな」
外川、ニコリ。
「凄いよ、あの子たち。まるで敵国に乗り込んだ
代表チームのようだったのに。本当に強いねえ」
左京、苦笑い。
「やれやれ。俺たち次を勝ったら、あの深体大と
戦うんだぜ。ひと皮むけたアイツらと…」
佐戸、腕組み。
「ああ、彼らを学生だとは思わない方がいいな」
「深体大、こうなりゃ優勝だ!!!!!」
「黄金世代のチカラ、見せつけてこい!!!」
「そして次はBリーグで暴れろ!!!!!」
これからのBリーグを盛り上げるであろう、
若きプレイヤーたちに声が飛ぶ。
この特別な世代の参入を、みんなが待っている。
牧 「ふぅ…」
諸星 「死ぬほど疲れたぜ…」
河田雅は、横浜Dベンチに目を向ける。
「相手の分も背負って、次は準決勝だ」
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
「「「 レッツゴー・ドリームス!!!!! 」」」
ガンガン・ガガガン!!!!!!!
声援は鳴りやまない。
スッ…。
仙道が、床に座る清田に手を伸ばした。
「ノブナガ」
清田 「センさん…」
仙道の手を握る。
仙道、ニコリ。
「次は、勝とう」
続く
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スラムダンクの続きを勝手に考えてみる(1235) へのコメント一覧
仙道がこのチームで勝つとこが見たいな
けどめっちゃ面白かった!
仙道の行く末が、楽しみだなぁ!
この言葉が全てだ
納得のいく終わり方で大満足です!!
納得のいく終わり方で大満足です!!
桜木vs仙道みたいなアンタッチャブルな試合は描写せずに置いておきたい
ってコトかな
Kさんいつもありがとうございます!
激しい死闘の中、準決勝に駒を進めた深体大。
横浜ドリームスも惜しかったですが、この先の花道との戦い、三井との戦いなど新たな展開に期待です!
仙道、福田、清田よくやりました!本当によくやりました!深体大も牧さん、諸星、河田だけでなく、大野や樋口もしっかりとプレイしてチームに繋げ、次の準決勝も楽しみです!
清田の勝ちたかったの一言にこっちも涙が出そうになり、応援団の力にこっちも励まされました!
弥生さんの仙道がドリームスで最後のプレーというのは気になりますが、このチームで高砂&高野と頑張ってほしいのもあるし、三井や赤木と同じチームでプレイしてほしいのもあり複雑な気持ちです!
準決勝2試合目はどのような展開を迎えるのか、そして3試合目東京ペイサーズVS青葉学院大学も目が離せません!要チェックや!
Kさん最高の試合をありがとうございました!
にしても横浜D主人公チームっぽすぎてどこかでサクセスストーリー書かれてほしくなりました!
この紙一重ともいえる壮絶な試合を観て
次は、更に、一皮剥けた彼らと戦うというのにも関わらず、どこか、まだ余裕がある
あの牧ですら、卒業して、プロや日本代表入りとなれば、“途中出場”の可能性が高いと言われているということは
たとえ、「黄金世代」といえど、現段階では、日本のトップではなく、“日本の未来”に他ならないということだから
しかし、桜木と仙道、あるいは、流川と仙道の勝負が観られるのは、一体、いつになることやら
既に、『書かない』と公言はしているものの、過去に戻って、「湘北優勝」を描き出したら、流石に、目眩がするかもしれない(勿論、実際に書き出したら、それは、それで、楽しんでしまうのだろうけど…)
どっちも負けて欲しくないと思いつつも、深体大が勝てて自分はホッとしました。
仙道と桜木の対決はいつか必ず実現すると思うので、その時を楽しみにしたいと思います(*^^*)
kさんに至っては、「これ以上の試合書けない」とかでいきなり終わるのなしっすよ?w
20、30年待つのはキツイ
(花道、流川等との世界一がもしかしたら先でしょうか?)
今回は仙道に勝ってほしかったな!
次は勝ってくれ仙道!!
ドリームスにスポンサーつかないかな。
関東トーナメント決勝、ユニバ、インカレ決勝、ずっと負けてましたもんね。王者らしい姿が久々に見れてよかったです。
それなのに勝ちすぎているというコメントが入るのはよほどK氏が巧みに深体大の強さを書いてきた故か?
その次はアメリカですか、と🇺🇸😏
てかずっと負けてね?
いつ勝ちすぎたの?
kさん、ありがとう!!
高砂だ!ギンッ
今回のゲームも面白かったです。
ちょうどこのヤフーニュースの記事を見た後に、この回を読みました。いろんな道がある。その道を、正解にするか、不正解にするか、それは自分次第。
一人ひとりでは答えはそれぞれだけど、大きな視点では、日本バスケ界は、正解の道を歩んでいると思います。リアルもドリーム(Kの部屋)も。
今回もありがとうございました!
SG仙道
F 福田 高野
C高砂
ツインシューター
木暮&宮益
赤木(オレもそっちに行こうかな?)
ゴリは川崎への入団が決まっています
次話であるでしょうきっと
この戦いも最高なゲームのひとつだったのですが、これ以上の試合をまだまだ書き続けられるのかが我々読者心配になってるところだと思います
永いこと読ませていただいてますがこれからも書いていただくKさんの体調が気に掛かるところです。
どうか無理せず休み休みでいいので更新してくれるとありがたいです。
我々の勝手な心配でした。
特に仙道は学年の壁を超える天才かと思っていたが…
高校の頃の輝きはもうない気がする。
テレビでたまに特集がある、プロで活躍している選手が学生の頃に勝てないと思った相手の今を追うと普通のサラリーマンやってるみたいな感じにはならないで欲しい
ここ最近負けてるイメージというか
負けてるじゃん
読んでからコメントしなさいね
スラムダンクの続きの終わりと感じてしまった。
続き、楽しみにしてます!!
情景が浮かびますね
そんな描写ありました??
B3から再スタート
とか?
更に言うと牧はそもそも原作でも神奈川では負けてないだけで、全国では負けている(優勝じゃないから)
帝王のイメージはあっても負け知らずではない。
牧が勝ちすぎというのは少しわかる気がします。
所属チームとしては、敗退はあるし描写もあるけど、個々の対決の部分では負けがない気がします。確かに帝王とまで言われるくらいだからは負けないと思いますが、プロ、元代表を要する実業団相手でも敵なし感があります。次戦の三河戦(名古屋ではないよね...)では苦戦する牧を見てみたいです。
個々の対決で負けがないのはそれこそ仙道も同じでは?なぜ牧だけこんなふうに言われるの?
いつかリベンジしてほしい。
このドリームスがそのまま続いてほしい。
そうですね。
仙道のようなスタイルのプレーヤーは高校時代たまに見かけましたけど大学入るとあまり伸びなかったなー。むしろ牧みたいなガード(ポジション)に特化した選手の方が伸びたようなら印象がある。これからは分かりませんが
PG清田
SG諸星
SF仙道
PF河田兄